燃料電池の燃料極  - 水素分子の場合 -   


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 GAMESSを使って燃料電池の燃料極で起きている白金と水素分子の反応を調べてみました。
 白金の触媒作用として水素分子が吸着・解離することがわかります。
この計算にはFirefly version 8.1.0 
を使用し密度汎関数のB3LYP法を用いました。 
 
 
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 水素分子が白金に近づくときにどの様な反応が起きるかを調べるために、下図に示すように水素原子間距離(r)と白金-水素分子間距離(R)を変化させながらエネルギーの変動を調べました。 
  
               Rとrの説明図
                          

 その結果をまとめると下の表のようになります。        
 R(Å)  r(Å) 無限遠との
エネルギー差(eV) 
Pt-H
結合次数 
H-H
結合次数 
Pt-Pt
結合次数 
3  0.75  0.095  0  0.97  2.13 
@ 2.75  0.75  0.172  0  0.96  2.13 
A 2.5 0.75  0.303  0  0.94  2.13 
B 2.25  1  0.133  0.22  0.72  1.31 
2  2.5  -0.51  0.943  0  1.02 
1.75  2.5  -2.116  0.95  0  1.03 
1.5  2.5  -2.852  0.95  0  1.02 
最適化  2.66  -2.87  0.955  0  1.03 

 イメージ的には水素分子がPtに近づくにつれ下図のような軌跡を描きます。

軌跡

 どうしてこの様な軌跡を描くのでしょうか。H-H間の距離が広がっていく表の@からBの分子軌道のうち水素分子の電子が存在する分子軌道を見ると、水素分子の結合性分子軌道が白金の原子軌道と相互作用していく様子がわかります。   
    
2.75 2.5 2.25
 また、最も安定な最適化した構造の分子軌道を見ると水素分子の反結合性軌道にも電子が入っています
 最適化No9 最適化No10 
 水素原子間結合性軌道 水素原子間反結合性軌道

 このように両方の軌道に電子が入ることによりキャンセルし合い水素原子間の結合が切れていることが分かります

・ここまでのまとめ・
 
Pt-H2間距離2.5Åで水素分子の結合性軌道がPtのd軌道と相互作用し始めている。水素分子の結合性軌道にいた電子がPtにも流入することにより水素分子の結合弱化、一方Pt-Hの結合生成。Pt-H2間距離2.25Åになるとその傾向はさらに進み水素原子間距離が1Åに広がる。Pt-H2間距離2Åでは水素分子の反結合性軌道にPtの電子が流入し水素分子は解離する。
 この過程においてエネルギーは次第に低下しており、この反応が自発的に起きることを示している。したがって白金は水素分子を解離吸着する触媒機能を持つと言える。    2015/3/4

 次に水素原子が電子を奪われてプロトンになる過程について調べました。燃料電池には幾つかの種類がありますが、調べやすそうなリン酸型燃料電池を選びました。これは電解質に高濃度のリン酸溶液を用いています。リン酸(H3PO4)はプロトンの放出具合により一価から三価のリン酸イオンになりますので、どの価数のイオンが反応に係わるかを確かめました。
 モデルは最小のもので白金原子一個に吸着した水素原子一個、そこにそれぞれの価数のリン酸イオンを近づけて行きます。こんな感じです。

              PtH+HPO4

 
この計算はMOPACで行いました。その結果のエネルギー変化をそれぞれの価数毎にグラフで示します。

三価
     三価
二価
     二価
一価
     一価 
 
この結果は一価のイオンが最も反応が起こりやすいことを示しています。二価のイオンも最終的にエネルギーは下がりますが、Ptとリン酸イオンの水素が入れ替わるだけで、水素原子がPtから離れることはありませんでした。
 一価のイオンの場合の最適化した最終形状は下図のようです。

         最適化
  この時白金原子は-0.81の負電荷を持ちましたから水素原子の電子が白金に移動し、水素原子はプロトンとしてリン酸イオンに移動したものと考えられそうです。  
 
こうしてみるとリン酸形燃料電池の電解質としては一価のリン酸イオンができるphに調整すると良さそうに思えます。                        2015/4/17                         

 Firefly QC package [1], which is partially based on the GAMESS (US) [2] source code.

  1.     Alex A. Granovsky, Firefly version 8, www http://classic.chem.msu.su/gran/firefly/index.html

  2.     M.W.Schmidt, K.K.Baldridge, J.A.Boatz, S.T.Elbert, M.S.Gordon, J.H.Jensen, S.Koseki, N.Matsunaga, K.A.Nguyen, S.Su, T.L.Windus, M.Dupuis, J.A.Montgomery J.Comput.Chem. 14, 1347-1363 (1993)

                                               
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